第4報 見えてきた道筋と重要課題(2017年3月31日)

5日目の会議最終日は、予定通り、トピック3として「制度的取り決め」をめぐる意見交換が行われた。また、6~7月の第二会期の前半の日程案が確認された。議長は7月7日の条約採択を目指すことを宣言した。条約成立までの具体的な道筋が見えてきたと言えるだろう。

他の国際条約の場合と同じく、核兵器禁止条約においてもその履行を確保するとともに、締約国を増やして普遍化を進めていくことが大きな課題だ。繰り返し確認されているようにこの条約のめざすところは核兵器の完全廃棄であり、いかに核保有国や核の傘依存国の参加を促す仕組みを作っていくかがとりわけ重要となる。午前、午後を通して32か国、1つの国際機関、3つのNGOが発言した。議論のポイントをいくつか紹介したい。

■条約加入について
いくつかの国からは、核保有国の参加に扉を開くための具体的な方途が提案された。ブラジルやオーストリアは先だって保有核兵器を解体・廃棄することを条約加入の条件とすべきではないと主張した。核保有国は自国の核兵器の廃棄について時間枠を含む詳細な実施計画を提出することで、廃棄をすべて完了させなくとも条約に加入できるというものだ。ブラジルはラテンアメリカ・カリブ地域の非核兵器地帯条約(トラテロルコ条約)の経験を引き合いに、核兵器の完全廃棄を実現させるための柔軟かつしっかりとした合意を作っていくことは可能であると強調した。オーストリアは核保有国が非核化を達成するまで継続して締約国会合で報告を行っていく必要性についても述べた。

■発効要件について
条約の正当性を担保するためにはある程度の厳しい発効要件が必要である。しかしそれが厳しすぎる場合、包括的核実験禁止条約(CTBT)のように、速やかな発効が望めなくなるというジレンマがある。ほとんどの国からは、早期の発効を可能にすべく、特定の国家の批准を発効要件に含めるべきでないとの見解が示された。発効要件の具体的な批准国数として、スウェーデンは禁止条約交渉を決定した国連決議に対する賛成国の数などを元に80か国が妥当であろうと述べた。早期の交渉妥結を強く主張してきたマレーシアはさらに低く35~40カ国を提案した。

■留保、脱退について
留保の可能性や脱退条件も核保有国や核の傘依存国の条約加入のインセンティブに影響を与える。ほとんどの国が留保を認めることに否定的であったが、マレーシアはそれが条約の目的や目標に反するものでなければ認めるべきとの見解を示した。脱退の具体的条件についてもいくつかの国が意見を述べた。たとえばメキシコは武力紛争中の脱退を認めないこと、条約発効後の15年間は脱退を認めないことの2つの条件を提示した。

■締約国会議などについて
多くの国が締約国による年次会合や5年に一度の再検討会議の開催について提案した。また、補完的条約や議定書の交渉を含む特別セッションの開催も求められた。そうした会合の運営を含め、条約義務の遵守を確保し、普遍化を進めるとともに、様々な問題解決のメカニズムとして機能する条約機構の設置についても様々な意見があがった。いくつかの国は国連軍縮局(UNODA)の事務局機能に期待を述べた。国際原子力機関(IAEA)を含む既存の国際機関との協力の必要性にも言及があった。また、市民社会を条約の「後見人であり見張り役」と表現したトリニダード・トバゴをはじめ、市民社会との関係の制度化を提言する声もあった。

 

会議終盤、議長は6月15日に始まる第2会期前半の詳細な日程案を配布し、5月後半か6月頭までに議長案として条約ドラフトを回覧すると述べた。また、7月7日の最終日に条約の採択をめざすことを明言した。第2会期の流れは次の通りである。議長ドラフトを元に、条約の主要セクションごとの具体的文言の検討が図られていくことになる。また、各国間や議長サイドとの協議の時間が確保されており、おそらくクローズドのセッションとなると予想される。

  • 6月15日(木)
    午前:議長による条約案の紹介、条約案に関する全般的意見交換
    午後:条約案に関する全般的意見交換(続き)、NGOによる意見表明
  • 6月16日(金)
    午前:条約案に関する全般的意見交換(続き)
    午後:協議時間として確保
  • 6月19日(月)
    午前:条約文案の検討:クラスター1(前文)
    午後:条約文案の検討:クラスター2(積極的義務)
  • 6月20日(火)
    午前:条約文案の検討:クラスター3(中核的禁止事項:効果的な法的措置、法的条項及び規範) 午後:条約文案の検討;クラスター3(中核的禁止事項)(続き)
  • 6月21日(水)
    午前:条約文案の検討:クラスター4(履行及び制度的取り決め)
    午後:条約文案の検討:クラスター5(普遍性及び最終条項)
  • 6月22日(木)
    午前:協議時間として確保
    午後:協議時間として確保
  • 6月23日(金)
    午前:協議時間として確保
    午後:会期後半に向けた組織的事項に関する協議

各国政府、国際機関、市民社会の貢献に謝意を述べ、交渉会議第1会期の閉会を告げるホワイト議長に対し、会場からは惜しみない拍手が続いた。会議に参加した国の数は132と伝えられる(ICAN調べ)。

第3報 禁止の範囲は?(2017年3月29日)

会議3日目の冒頭は、前日の積み残しとして「トピック1:原則と目標ならびに前文」の議論が行われた。イラン、赤道ギニア、赤十字国際委員会(ICRC)の発言に続き、ICAN、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、国際反核法律家協会(IALANA)、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)が市民社会として意見を述べた。PNNDのメンバーとして志位和夫衆議院議員(日本共産党)も発言した。

続いて議論は二番目のトピックである「中核的禁止事項」に移った。ここでは条約が規定する禁止の範囲をどこまで広げるかに加え、完全廃棄の義務をどのように規定するかについても各国が意見を述べた。また、参加国の多くからは「積極的義務」として核被害者の権利や環境の回復の重要性にも言及があった。午前・午後を通して、32の国家及び国家グループ、1つの国際組織、11のNGOが発言を行った。

盛り込まれるべき禁止事項として多くの国が共通して挙げたのが、核兵器の使用、開発、生産、取得、貯蔵、移譲、配備である。また、そうした禁止事項について、他者を援助、奨励、あるいは勧誘することも禁止すべきとされた。いくつかの国は融資の禁止にも言及した。

禁止事項の中には、各国間に考え方に相違が見られるものもあった。「使用の威嚇」はその一つである。いくつかの国は、使用とともに使用の威嚇も禁止すべきと強く主張した。たとえば、チリは、「使用の威嚇」こそ核抑止概念の基盤にある問題であるとし、禁止の中心項目として含まれるべきであると訴えた。他方、オーストリアは、使用の威嚇が「その範囲について様々な解釈を生みかねない」と反対した。また、オーストリアは、「(すべての加盟国に対し)武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものの、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と定めた国連憲章第2条4項をとりあげ、「(核兵器)使用の威嚇」を条約に盛り込むことはすでにより広い概念で禁止されている「規範」の正当性に対する疑義ととらえかねない、との見方を示した。後者の点については、NGOの意見表明の中でも言及があったように、既存の非核兵器地帯条約の附属議定書において、核兵器国を対象とした禁止事項に「核兵器を使用しないこと又は使用するとの威嚇を行わないこと」が含まれていることを指摘しておきたい。これを明記したトラテロルコ条約付属議定書Ⅱ第3条にはNPTの定める5つの核兵器国のすべてが署名・批准を済ませているという事実も重要である。

また、「実験」の項目についても意見がわかれた。論点の一つは既存の包括的核実験禁止条約(CTBT)との関係である。多くの国が「実験」の禁止を新しい条約に含めることを支持し、加えてCTBTが禁止の対象に含まない未臨界核実験やコンピューターシミュレーションの禁止を提唱した南アフリカのような国もあった。また、アイルランドは、「開発」禁止の概念の中に、核兵器の設計、製造などとあわせて「実験」禁止も包含されるべきとし、そこにはコンピューターシミュレーションも含まれるとの理解を示した。しかしこの点においてはアイルランド自身が「さらなる議論が必要」であると付言し、共通理解の促進に向けた努力を促した。他方、オーストリアはCTBTとの重複を理由として、実験を禁止項目に含めることに異を唱えた。また、マレーシアは実験の禁止を主文ではなく前文に含めることを提案した。

「通過」の禁止についても条約の中に含めるべきとする意見がある一方で、オーストリアはそれが条約交渉を困難にするとの見方からそれに反対した。同国は、通過の問題がいずれにしても「支援」禁止の一部に含まれるとの見解も示した。外国船舶や航空機による港や飛行場への寄港を含む領域の通過に関してはこれまでに作られた非核兵器地帯条約の交渉過程でも主たる争点の一つであった。

このように、意見の隔たりは間違いなく存在するし、今後の交渉を通じてそれらがどのように埋められていくのかについてはまだ見通しは難しい。しかし、この会議の傍聴を通じて感じることは、各国政府や国際機関、そして市民社会の間に、建設的な議論を重ね、共通理解を深めつつ、「作るべき条約案」の姿を探っていこうという積極的な雰囲気が間違いなく存在することである。この点に関して、3日目の終了前、ホワイト議長が翌4日目をNGOやアカデミアの専門家がパネリストとなり、政府と自由に意見を交わしていくインタラクティブなセッションの開催にあてると発表したことは象徴的であった。禁止条約制定に向けた一連の動きの中で、各国政府と市民社会が建設的な協力関係を発展させてきたことの証拠と言えるだろう。

第2報 条約前文をめぐる議論(2017年3月28日)

会議2日目の午前は、初日に続き、「ハイレベル・セグメント」として22の政府代表と1つの国際機関が発言を行った。当初の日程案では初日に「ハイレベル・セグメント」を終了し、2日目からはトピック1として「原則と目標、前文の要素」に移行する予定であったがずれ込んだ結果だ。発言を希望する国が想定を超えてはるかに多かったということであり、今回の会議に参加した国々の積極姿勢を示す一つのエピソードと言えるだろう。

「ハイレベル・セグメント」の最後においては、満場の拍手喝采を浴びた広島被爆者、サーロー・節子さんの発言を含め、5名のNGO代表が発言し、禁止条約制定への市民社会からの強い期待を述べた。

午後からはトピック1に関する議論が始まった。前文とは、その条約が「何を目指すものなのか」の基本的認識を述べる部分である。29か国が前文に含まれるべき要素について見解を述べたが、その多くに共通していたのは、条約の目標は核兵器の完全廃棄であり、法的禁止は核兵器のない世界の達成と維持に向けた包括的なプロセスの一歩と位置付けられるべき、との認識であった。そしてその基盤にあるのは、核兵器のもたらす壊滅的な人道的結末やその使用のリスクに対する明確な認識であることに多くの国が言及した。また、ほとんどの国が既存の核軍縮・不拡散努力との関係に触れ、禁止条約がNPTに完全に合致するのみならず、第6条の履行に貢献するなどそれを補完、強化するものであることを強調した。

加えて、前文に含まれるべきものとして次のような要素にも言及があった。
・国連憲章の目的と原則
・効果的な国際管理の下における全面完全軍縮の目標
・国際人道法、人権、環境などの国際法の基本原則
・過去の重要国連決議
・核保有国を含めた条約普遍化の必要性
・96年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見
・核兵器のない世界に向けた法的拘束力のある措置としての非核兵器地帯条約の貢献
・核の平和利用の「奪い得ない権利」
・核保有国の核軍縮努力における遅滞
・軍縮と開発の関係。とりわけ核兵器の維持・近代化にかかるリソースの再配分
・国連、国際機関、市民社会からの貢献
・核被害者の権利、国家による支援提供の責任
・核兵器の影響における性差

各国の発言の中では、7月の第2会期末までの条約成立を狙うマレーシアをはじめ、限られた時間内での交渉を可能とする「明確かつ端的」な条約案を目指す意向が示される一方、「多くの根本的疑問が残っている」と拙速な議論に警鐘を鳴らしたスイスなど、慎重な姿勢を見せている国もある。3日目からは条約の根幹部分である「中核的禁止事項」の議論が始まるが、各論部分においてこれらの国々の見解の違いはより鮮明になってくると思われる。

2日目の午後にはオランダの発言もあった。NATO加盟国の中で唯一、禁止条約交渉会議の開催を定めた昨年の国連総会決議に棄権票を投じた国である。オランダはNATO「核同盟」の義務に言及し、禁止条約がそれに抵触しないものとなることを求めた(オランダは米国の戦術核が配備されている欧州国家の一つである)。「抜け穴のない禁止条約」を求める国々からは受け入れがたい主張であるが、中長期的に「核の傘」下の国家の参加を促す仕組みを考える上ではこうした点を丁寧に議論していく必要があるだろう。明日以降の議論において、「核の傘」下の国家に間接的・直接的に影響を与えうる禁止項目、すなわち核兵器の「配備」「通過」「援助」「奨励」「使用の威嚇」といった項目についても各国の発言に注目していきたい。

第1報「異質」な日本の演説(2017年3月27日)

午前10時過ぎ、国連総会会議場にて、核兵器禁止条約の制定に向けた初の交渉会議が幕を切った。110か国以上が出席したと伝えられる。一般的意見交換の初日は「ハイレベル・セグメント」として、午前にはキム・ウォンス国連軍縮担当上級代表、フランシスコ・ローマ法王(代読)、ペーター・マウラー国際赤十字委員会(ICRC)総裁(ビデオメッセージ)、藤森俊希日本被団協事務局次長らに続いて11の国家及び国家グループが、午後には18の国家がそれぞれの見解を述べた。注目されていた日本政府は午前の最後に発言を行った。

会場に核保有国の姿はなかった。だが一方、会議開始と時を同じくして、米国のニッキー・ヘイリー国連大使が北朝鮮の脅威に言及しながら禁止条約交渉に反対する声明を国連内の別の場で発表した。その場には同じく核保有国であるフランスと英国の国連大使とともに、核の傘依存国であるアルバニアや韓国などの政府関係者も同席したと伝えられる。会議不参加の国々が場外「抗議行動」をしたということであり、これ自体が異例と言えるだろう。これまで長年にわたって核兵器の多国間議論の主導権を握ってきた核保有国が法的禁止に向けた一連の動きにおいてはその座を奪われ、いわば守勢にまわっているという印象は否めない。なお、日本政府がこの場に同席していたという情報はない。

本日ステートメントを述べた国々は、後述するように禁止条約に否定的な見解を述べた日本を除けば、内容に一定の違いはあるものの、いずれも核兵器禁止条約を支持する立場からの発言である。その多くが核兵器のもたらす壊滅的な人道上の影響と高まる使用のリスクに言及し、「人類すべてにとっての安全保障」にかかわる問題としてその禁止と廃絶が急務であることを訴えた。条約の「中身」の議論は明日以降も続くが、いくつかの国からは具体的な禁止の範囲や、時間枠、検証の在り方を含めた具体的な条約内容の提案についても言及があった。力強い演説のあとには、しばしば会場から拍手が沸き起こるなど、会場は終始熱気に包まれていた。

そうした一連の演説の中で、日本政府の発言はきわめて「異質」であった。壇上に立った高見沢将林軍縮大使は、「原爆の実相とその人道的結末に対する明確な認識について意識啓発することは唯一の戦争被爆国たる日本の使命」と述べるも、「(交渉会議に)建設的かつ誠実に参加することは困難」と今後の議論に参加しない意向を明言した。

ではその理由を日本政府はどう説明したのか。一言で言えば、NPT関連の会議や国連総会、国連公開作業部会等の議論の場で、これまで日本が繰り返し述べてきた基本姿勢の説明以上のものはなかった。核軍縮においては人道的側面とともに厳しい国際安全保障環境への認識が必要であること、核軍縮の前進には核兵器国の参加が不可欠であること、「漸進的アプローチ」でブロック(個別の措置)を積み重ねていくアプローチが最善であること。そして具体的な核軍縮努力として、核兵器国を巻き込んだ形でCTBT早期発効、FMCT交渉開始などの実際的措置を含めたNPT合意の履行を進めていくことが重要であり、核兵器国の参加が見込めない禁止条約は国際社会のさらなる分断を招くものに過ぎない、というものだ。

日本の演説には、「現実的」「具体的」「実際的」といった言葉が繰り返し登場するが、核軍縮が長年にわたり行き詰っていることも、NPT合意が完全履行されていないことも、核兵器使用の危険性が高まっていることも「現実」である。核兵器禁止の議論は、まさにこれらの「現実」に対処しなければならないという危機感を基盤として生まれたものだ。日本政府の「現状維持」姿勢は現在の危機的状況に対してむしろ楽観的とさえ言えるのではないか。

日本に先だって登壇したオーストリア政府の発言の一部を最後に紹介したい。

「率直にお伺いします。もしあなたもリスクにお気づきだとしたら、他に何か良い方法があるとでもいうのでしょうか? 何もしないということがより良い戦略だというのでしょうか?
なぜこんなに面倒なことをしているのか、と人に聞かれます。のんびり座って、核事故が起こるのを待てばいい、テロリストが核爆発を起こすのを待てばいい。そうすれば各国は慌てて集まって核兵器を禁止するでしょう。
私はそんなことはごめんです。核の惨禍を待つことは戦略ではありません。
それは過去、そして未来における核被害者たちを冒涜することに他ならないからです。
核兵器禁止のプロセスを始めるよいタイミングがあります。それは今です。」

日本が参加しないまま交渉が進んでいくことは間違いなく、日本が外交上失った機会は限りなく大きい。

第0号 歴史的会議の開幕を前に (2017年3月26日)

明日3月27日、核兵器禁止条約交渉会議がニューヨーク国連本部にて始まる。昨年12月23日に賛成113、反対35、棄権13で採択された国連総会決議71/258に基づき、「核兵器の完全廃棄につながるような、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉」を目的としたものだ。交渉会議は3月27日~31日、6月15日~7月7日の2つの会期で構成され、コスタリカのエレイン・ホワイト大使が議長を務める。参加各国には条約の早期締結を目指した「最大限の努力」が求められている(国連総会決議71/258主文12)。

会議に先立つ25、26の両日には、核兵器禁止に向けたこの間の国際議論に貢献してきたICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の戦略会議が開かれるなど、周辺の熱気も徐々に高まっている。

本ブログではニューヨーク現地からの「短信」として、会議の動き、各国の主張や議論のポイントなどを不定期に紹介していくことを目指す。RECNAのプロジェクトであるが、文責は中村桂子個人にあることを付記しておく。

 

■何が議論されるのか

まずは2つの会期がどのように進むのかを見ていこう。2月16日に開催された会議準備のための「組織会合」で採択された「議題」と「3月会期の暫定日程表」によれば、3月会期は議題や手続き規則の採択、第2会期の作業構成といった実務的事項の討議以外はほとんどの時間が「一般的意見交換」に費やされる。初日のハイレベル・セグメント(国連事務総長や参加国の政府高官による演説)に続き、3つの主題(①原則と目標、前文の要素、②中核的禁止事項:効果的な法的措置、法的条項及び規範、③制度的取り決め)に沿って参加国がそれぞれの見解を述べることになる。こうした議論を通じて、各国が描いている「作られるべき条約」の骨子が明確に見えてくる。おそらく6月~7月の第2会期を前に条約案文が出される運びとなるだろう。

この条約案を元に、実際の「交渉」がスタートする。議題の最後には「会議報告書の採択」が予定されている。2月の組織会合において、この「採択」には条約そのものの採択の可能性も含まれることが示唆された。意思決定方法についてはこれまでも様々な議論が出されてきたが、「手続き規則」案においては「全会一致(コンセンサス)達成に最大限努力する」としつつも、それが達成できないと議長が判断した場合は、(実質事項については)参加国の3分の2で賛成投票で決定できる、と明記された。現時点では何の予測もできないが、条約の早期締結も可能性としてあることに言及しておきたい。

 

■3月会期で注目すべきことは

法的禁止の枠組みの在り方や、そこに含まれるべき諸要素については、2016年の国連公開作業部会をはじめとする様々な国際議論の場で議論が積み重ねられてきた(RECNAのOEWGモニター参照)。その中で支持を高めてきたのが、検証や廃棄プロセスの規定より核兵器禁止の規範の確立を先行させる「禁止先行条約」である。これを推進してきた国々、そしてそれを後押しする国際NGOらは、核兵器の非人道性への認識に基づきその違法性を明確に確立することが核兵器に「汚名を着せ」、停滞を続ける核軍縮を前に進める千載一遇の好機となると捉えている。しかしこうした見方に対し、核保有国や核の傘に依存する政府は当然としても、専門家や研究者の中にも規範意識の向上を期待した条約の実効性に対する冷ややかな目は存在し、核保有国の行動を変えるには至らないと懸念する声は小さくない。

こうした中、今後の議論の焦点としては、前文に何を盛り込むか、禁止事項の範囲をどこまで広げるかといったところとあわせて、禁止条約の制定後を見越し、中長期的な視点からその実効性をいかに担保する仕組みを作っていけるかという点が重要になってくるだろう。国連決議が明記するように、この会議の目的は「核兵器の完全廃棄につながる」禁止条約を交渉することであり、禁止条約の制定は廃絶に向かう一歩に過ぎない。すでにNGOからも具体的提案があるように、条約の履行を促進する再検討プロセスや条約非締約国に参加を促す仕組みにも工夫が求められるだろうし、NPTをはじめとする既存の条約との関係もさらに議論されていく必要があるだろう。

本稿の執筆時点で日本政府の参加の見通しが伝えられているが、こうした条約の実効性向上のための議論において、日本が積極的な役割を担う可能性は十分にあると考える。今後、米国を筆頭に核保有国からは「禁止条約は無駄であるだけでなく、有害である」という一大ネガティブキャンペーンが張られていくだろう。すでに参加を表明しているオランダなどとともに、日本ら同盟国にはこうした核保有国の主張に単純に同調するのではなく、「ではどうすれば条約を実効性のある、有用なものにできるか」といった建設的な議論に貢献していくことが望まれる。